穏やかな日だった
雲が空全体を覆い
太陽の強い日差しは
僕の立つ地表には届いていなかった
風も、時折僕の頬を撫でる程度で
ほぼ無風と言っていい
気温も然程(さほど)高くはなく
過ごしやすいと言っても良かっただろう
そんな日の昼下がり
僕は、無数の真っ赤な花が咲く公園内で
綺麗に咲き誇る曼珠沙華の世界に入り込もうとしていた
だが、休日の公園内には曼珠沙華を見に多くの人が訪れている
家族連れやカップル
そして、多くのカメラマン
楽しみ方は人それぞれ
十人十色とはよく言ったものだ
いやいや、感心している場合ではない
1人の世界に、
曼珠沙華の世界に入り込める場所を探さなければならない
しかし、この日はなかなかそんな世界に入り込めずにいた
人が多いからだろうか?
曼珠沙華が密集して咲くエリアには
必ずと言って良いほど多くの人が立ち止まり
スマホやカメラで写真を撮ったり動画を撮ったりしている
考える事は皆同じのようだ
どうしようか?
公園内を歩き回りながら考える
答えが見つからぬまま無意識に人の少ない場所へ向かっていた
人が少ない場所
そこは当然のように曼珠沙華の数は少なく
誰も近寄ろうとはしない
たまに近寄ってくる人がいたとしても
誰も立ち止まる事はなかった
これは憶測だが、
カメラを手に持った僕が見えたので
良さそうな場所なのかと思い見に来たのだろう
あながち間違ってはいないと思う
だが僕はそんな場所で素敵な曼珠沙華の兄弟に出会ったのだった
兄弟は三兄弟
右側に1番上のお兄ちゃんがいて
真ん中に弟、左側に妹
この三兄弟は、
時折吹く風に体を振らせながら楽しそうにお喋りをしているようだった
僕もその中に入らせてもらい
写真を撮らせてもらう
三兄弟は写真を撮ってもらった事がなかったようで、
僕がシャターボタンを押そうとすると
激しく体を揺らすのだ
少し怖がっているようにも見えていた
「大丈夫だよ」僕は心の中で優しく問いかける
「大丈夫だよ」
「怖くないから」
すると安心したのか
三兄弟は体を降らすのを止め
兄弟仲良くポーズを決めてくれた
ガシャり!!
撮った写真を見せると
今度は嬉しさのあまり体を揺らす
それはまるで曼珠沙華の3兄弟が僕に
「ありがとう」
っと言っているようだった
少しの間ではあったが、
とっても素敵な世界に
今日も入り込むことが出来たのであった